親は「まだ運転できる」と言う。高齢ドライバーの自己評価と実際の運転のずれ

運転が心配で声をかけたら、「まだ大丈夫、ちゃんと運転できている」と返された。そんな経験をした人は少なくありません。研究では、高齢のドライバーは自分の運転を高めに見積もりやすい一方、控えめに見る人も多いことがわかっています。大事なのは、親の自己評価を否定することではなく、外からの評価を一緒に確かめることです。
3行でわかる
- 25本の研究のまとめでは、高齢ドライバーは自分の運転を高く評価し、しばしば過大評価していました。
- オーストラリアの研究では、実車評価で「安全でない可能性」とされた人の66%が、自分の運転を「良い〜とても良い」と答えていました。
- 日本の高齢者講習の調査では、過大評価は約5%にとどまりました。ずれの大きさは、測り方や人によって大きく違います。
01結論から言うと
「まだ運転できる」という親の自己評価は、実際の運転とずれていることがあります。ただし全員が過大評価しているわけではありません。親の言葉を否定せず、講習の結果などの外からの評価を一緒に見るのが近道です。
運転の力は、年齢とともに少しずつ変わります。少しずつの変化は、本人がいちばん気づきにくいものです。
研究では、自分の運転を実際より高く見積もる高齢ドライバーがいることが、繰り返し報告されています[1]。一方で、日本の調査のように、自分を控えめに見ている人のほうが多かった結果もあります[4]。
つまり「親は過信しているはず」と決めつけるのも、「本人が大丈夫と言うから大丈夫」と考えるのも、どちらも根拠が足りません。
02研究とデータでわかっていること
海外の研究では、運転に問題がある人の多くが自分の運転を「良い」と答え、ずれが大きい人ほど事故の経験が多い関連がありました。日本の調査では、過大評価は少数でした。
Huangら(2020)[1]
高齢ドライバーの運転の自己評価を調べた25本の研究をまとめました。高齢ドライバーは自分の運転を高く評価し、しばしば過大評価していました。若いころの自分や同年代、ほかのドライバー全体よりも上手だと考える傾向がありました。
対象: 10のデータベースから選んだ25本の研究(システマティックレビュー) / 限界: 自己評価の測り方が研究ごとに大きく違い、数字をまとめて計算はしていません。
Woodら(2013)[2]
実際の道路で運転を評価したところ、17%(47人)が「安全でない可能性がある」と判定されました。その66%は、自分の運転を「良い〜とても良い」と答えていました。指導員が車の操作を代わるほどの重大なミスをした人も、自己評価はほかの人と変わりませんでした。自己評価と実際のずれが大きい人ほど、過去5年の事故の経験が多いという関連もありました。
対象: オーストラリアの研究チームによる、地域に住む70〜88歳の270人 / 限界: 事故の経験は本人の申告で、ずれが事故の原因だとまでは言えません。
同じ研究で、参加者が「難しい」と答えたのは、西日に向かう運転、慣れない場所、雨の日、夜や夕暮れの運転などでした[2]。運転全体ではなく、場面ごとなら変化を自覚している人もいるということです。
Chenら(2021)[3]
自分の車で、ふだん行く場所まで運転してもらい、訓練を受けた評価者が運転を観察しました。自己評価と比べると、高く見積もった人が53%、ほぼ合っていた人が29%、低く見積もった人が19%でした。考える速さが保たれていて持病が少ない人ほど、高く見積もる傾向がありました。
対象: カナダの平均80.6歳の108人 / 限界: 人数が少なく、自信のある元気な人ほど高く見積もる結果は、ほかの研究でも確かめる必要があります。
峰松ら(2024)[4]
高齢者講習の実車指導の結果と、「ほかの平均的なドライバーと比べて上手か」という自己評価を比べました。自分を高く評価した人は5.1%で、低く評価した人が76.5%でした。高く評価した人は、年齢が高い傾向がありました。運転技能検査なら不合格となる70点に届かなかった人は20.2%でした。
対象: 日本・大分県の運転免許センターで2023年に講習を受けた70歳以上105人(回答率30.4%) / 限界: 回答した人に偏りがある可能性があり、1つの県の結果です。
この調査では、84.6%の人が「どんな状態になったら運転をやめるか」を考えたことがあると答えていました[4]。親も、自分の運転について何も考えていないわけではありません。
Hanら(2026)[5]
2年間に事故を起こした290人のうち、61.7%は事前に運転の不安を自分で答えていました。残る38.3%は、不安を答えていなかった「気づいていない」人たちでした。家族など身近な人が答えた運転の問題は、94.3%が「ゼロ」で、事故を予測できませんでした。
対象: 韓国の60歳以上の男性1,673人を2年間追跡 / 限界: 男性だけの研究で、日本の家族にそのまま当てはまるかはわかりません。
家族の見立てだけでは見落としがある、という結果です。日本では、70歳以上の人は免許の更新時に、実車指導を含む2時間の高齢者講習を受けます。実車指導は、運転技能検査と同じように客観的な基準で評価されます[6]。親の自己評価と家族の印象に、この外からの評価を加えると、ずれに気づきやすくなります。
03まだわかっていないこと
自己評価のずれを本人に伝えることで、事故が減るかどうかはまだ確かめられていません。ずれの大きさも測り方で大きく変わり、日本の研究はまだ少ない状況です。
- 実際の運転の結果を本人に返すと、自己評価が正確になり事故が減るか(まとめの研究も、今後の課題としています)[1]
- 過大評価する人の割合(5%から53%まで、測り方や国で大きく違います)[3][4]
- 日本の高齢ドライバー全体で、どのくらいずれがあるか(日本の調査は1県・105人です)[4]
- 家族のどんな気づきが事故の予測に役立つか(身近な人の評価は予測に使えなかった研究があります)[5]
04親と一緒にできること
「運転は大丈夫?」と全体を聞くより、場面ごとの変化を聞き、講習の結果のような外からの評価を親と一緒に見ます。判断を迫らず、親が自分で気づける材料を増やすのが目的です。
「全体」ではなく「場面」で聞く
研究では、夜や夕暮れ、雨の日、慣れない道などは、本人も難しさを感じやすい場面でした。「夕方とか雨の日の運転って、前と比べてどう?」と、具体的な場面を挙げて聞きます。親が「そういえば」と話し始めたら、まず最後まで聞きます。
目安 電話や帰省の雑談で5分
高齢者講習の結果を話題にする
講習の実車指導は、客観的な基準で評価されています。「講習のとき、教官の人に何か言われた?」と、責めない調子で聞きます。指摘されたことがあれば、「それ、気をつけるとしたらどうする?」と、親に対策を考えてもらいます。
目安 免許の更新の前後に1回
同乗して、気づいたことは1つだけ伝える
家族の印象だけでは見落としがあるので、同乗で見るポイントを決めておきます(同乗して確かめるポイント)。気づいたことは一度に並べず、「さっきの右折、ちょっとヒヤッとしたんだけど、見えてた?」と1つだけ聞きます。
目安 帰省で一緒に出かけるときに
迷ったら、第三者に相談する
各都道府県警察の安全運転相談の窓口には、全国共通の「#8080」でつながります。「一度、専門の人に聞いてみるのはどう?」と、決めるためではなく話を聞くために誘います。物忘れも気になる場合は、かかりつけ医に相談できます。
目安 電話1本、親と一緒に
免許返納の話を切り出すときの考え方は親に免許返納をどう切り出す?に、75歳以上の検査については75歳以上の免許更新の認知機能検査とは?にまとめています。
05よくある質問
高齢の親は、自分の運転を過大評価しているもの?
過大評価しやすい傾向は多くの研究で報告されていますが、全員ではありません。カナダの研究では53%が自分を高く見積もっていた一方、日本の高齢者講習の調査では過大評価は5.1%で、低く評価した人が76.5%でした。
親が「まだ大丈夫」と言うなら、信じてもいい?
それだけで判断するのは避けたほうがよいでしょう。オーストラリアの研究では、実車評価で安全でない可能性があるとされた人の66%が、自分の運転を「良い〜とても良い」と答えていました。高齢者講習の結果など、外からの評価もあわせて見ます。
家族が同乗して見れば、危ないかどうかわかる?
家族の見立てだけでは見落としがあります。韓国の研究では、身近な人が答えた運転の問題の94.3%が「ゼロ」で、事故を予測できませんでした。家族の気づきは、講習の結果や専門の相談窓口と組み合わせて使います。
出典
- Huang G, Luster M, Karagol I, Park JW, Pitts BJ. (2020). Self-perception of driving abilities in older age: A systematic review. Transportation Research Part F: Traffic Psychology and Behaviour, 74, 307-321. https://doi.org/10.1016/j.trf.2020.08.020
- Wood JM, Lacherez PF, Anstey KJ. (2013). Not all older adults have insight into their driving abilities: evidence from an on-road assessment and implications for policy. The Journals of Gerontology Series A, 68(5), 559-566. https://doi.org/10.1093/gerona/gls150
- Chen YT, Gélinas I, Mazer B, et al. (2021). Personal and Clinical Factors Associated with Older Drivers' Self-Awareness of Driving Performance. Canadian Journal on Aging, 40(1), 82-96. https://doi.org/10.1017/S071498082000001X
- 峰松恵里, 佐伯圭一郎, 村嶋幸代 (2024). 高齢者講習受講者の運転能力の過大評価. 日本看護科学会誌, 44, 526-535. https://doi.org/10.5630/jans.44.526
- Han JW, Kim TH, Kwak KP, et al. (2026). Self-Reported Driving Problems Predict Future Traffic Crashes in Older Men: Prevalence and Determinants of Unrecognized Imminent Risk. Journal of the American Geriatrics Society. https://doi.org/10.1111/jgs.70521
- 警察庁. 令和7年版警察白書 第5章第3節 2 高齢運転者の交通事故防止対策の推進. https://www.npa.go.jp/hakusyo/r07/honbun/html/bb5532000.html


