親の老いを受け入れられない。介護する子どもの心の負担と、研究でわかった支え

しっかり者だった親が、同じ話をくり返す。歩くのがゆっくりになった。そんな姿を見て、悲しさやいら立ちを感じ、そんな自分を責めていませんか。親の老いを受け入れられない気持ちは、介護する家族によく見られる反応です。研究では、家族を介護する人はしない人よりストレスや抑うつが強く、学びと相談の場がその負担を軽くすることがわかっています。
3行でわかる
- 家族を介護する人は、しない人よりストレスや抑うつの症状が強い傾向が、84本の論文のまとめで確かめられています。
- 親が生きているうちに感じる「失っていく悲しみ」は、研究でも名前のついた感情で、抑うつや介護の負担と関連しています。
- 介護や病気について学び、気持ちの対処を身につける支援は、負担や抑うつを軽くしました。地域包括支援センターが相談の入り口です。
01結論から言うと
親の老いを受け入れられないのは、あなたが冷たいからでも弱いからでもありません。介護する家族に多い心の負担で、一人で抱えず、学びと相談の場を使うことで軽くできます。
介護の負担というと、体の疲れや時間の不足を思い浮かべがちです。けれど研究では、介護する家族とそうでない人の差は、体の健康より心の面(抑うつ、ストレス)で大きく出ていました[2]。
また、認知症の家族を介護する人が、相手がまだ生きているうちに感じる喪失の悲しみは、「死別の前の悲嘆(pre-death grief)」として研究されています[4]。昔の親との違いに戸惑う気持ちは、おかしなことではありません。
02研究とデータでわかっていること
日本では、主な介護者の18.2%が要介護者と同居する子どもです。介護する家族はストレスや抑うつが強い傾向があり、学びと心理的な支援は負担を軽くしました。
厚生労働省の2025年の国民生活基礎調査では、主な介護者は、同居の配偶者が22.5%、同居の子が18.2%、同居の子の配偶者が4.2%でした[1]。離れて暮らしながら介護する「別居の家族等」も13.4%います[1]。
Pinquart・Sörensen(2003)[2]
家族を介護する人は、しない人に比べて、抑うつ、ストレス、「自分ならできる」という感覚(自己効力感)、心の健やかさのすべてで不利でした。差が最も大きかったのは抑うつとストレスで、体の健康の差は小さめでした。認知症の人を介護する場合は、差がより大きくなりました。
対象: 高齢者の介護者と介護していない人を比べた84本の論文のメタ分析(複数の研究を統合する分析) / 限界: 日本の介護者に絞った結果ではありません。
Pinquart・Sörensen(2011)[3]
介護する配偶者は、介護する子どもより抑うつの症状や経済的・身体的な負担が大きく、心の負担の差は主に介護する量の多さで説明されました。子の配偶者は、子どもより相手との関係を良く感じにくい傾向がありました。
対象: 168本の研究のメタ分析 / 限界: 子どもの負担が軽いという意味ではなく、続柄による違いを比べた研究です。
Sörensenら(2002)[5]
介護する家族への支援は、負担、抑うつ、心の健やかさなどを全体として改善しました。中でも、病気や介護のしかたを学ぶ「心理教育」と、カウンセリングなどの心理的な支援が、どの面でも安定して短期の効果を示しました。
対象: 高齢者を介護する家族への支援を調べた78本の研究のメタ分析 / 限界: 改善の大きさは小〜中程度で、認知症の家族を介護する人では効果が小さめでした。
03まだわかっていないこと
「親の老いを受け入れられない」気持ちそのものを和らげる方法は、研究がまだ少ない分野です。日本の、離れて暮らす子どもに絞った研究も多くありません。
- 死別の前の悲嘆は、研究ではまだ定義を固めている段階の考え方です[4]。
- 紹介したメタ分析は日本の介護者に絞ったものではなく、日本の介護の制度や家族の形にそのまま当てはまるかはわかりません。
- 離れて暮らす子どもの心の負担と、それに合った支援を比べた研究は見つかりませんでした。
04親と一緒にできること
まず自分の気持ちを認め、親とは「これからのこと」を一緒に話します。一人で抱えず、地域包括支援センターで相談と学びの場につながります。
自分の気持ちに名前をつける
「親が変わっていくのが悲しい」「いら立つ自分がいやだ」と、紙に書き出してみます。介護する家族は、ストレスや喪失の悲しみを抱えやすいことがわかっています[2][4]。感じてはいけない気持ちではありません。
目安 気持ちが重い日に5分
親の気持ちから聞き始める
「最近どう?困ってることとか、手伝ってほしいことある?」と、親の思いを先に聞きます。そのうえで「元気なうちに、これからのこと一緒に考えておきたいんだ」と伝えると、親を年寄り扱いせずに話を始められます。免許返納の切り出し方も同じ考え方です。
目安 帰省や電話で、急がず何回かに分けて
地域包括支援センターに、家族として相談する
厚生労働省は、高齢者の日常生活の困りごとや介護に関する相談先として、地域包括支援センターを案内しています[6]。親の住む地域のセンターは、市町村のホームページや介護サービス情報公表システムで探せます[6]。
目安 心配が続くと感じたら、まず電話1本
介護や病気について「学ぶ場」を使う
学びと心理的な支援は、介護する家族の負担を軽くしました[5]。市町村は、介護する家族を支える事業を行うことができます[7]。家族向けの教室などがあるか、センターで聞いてみます。物忘れが気になる場合は、年のせいの物忘れとの違いも参考にしてください。
目安 月に1回、自分のための時間として
05よくある質問
親の老いを受け入れられないのはおかしい?
おかしくありません。家族を介護する人は、しない人よりストレスや抑うつが強い傾向があり、認知症の家族を介護する人が相手の生前に感じる喪失の悲しみも研究されています。一人で抱えず、相談先を使うことがすすめられます。
親の介護のことは、どこに相談すればいい?
厚生労働省は、高齢者の日常生活の困りごとや介護に関する相談先として、地域包括支援センターを案内しています。親の住む市町村のホームページなどで担当のセンターを探せます。介護保険の手続きは市区町村の介護保険担当課でも相談できます。
介護する家族のストレスを軽くする方法はある?
高齢者を介護する家族への支援78研究のまとめでは、病気や介護のしかたを学ぶ心理教育と、カウンセリングなどの心理的な支援が、負担や抑うつを安定して軽くしました。効果の大きさは小〜中程度でした。
出典
- 厚生労働省. 2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況 IV 介護の状況. https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa25/dl/05.pdf
- Pinquart M, Sörensen S. (2003). Differences between caregivers and noncaregivers in psychological health and physical health: a meta-analysis. Psychology and Aging, 18(2), 250-267. https://doi.org/10.1037/0882-7974.18.2.250
- Pinquart M, Sörensen S. (2011). Spouses, adult children, and children-in-law as caregivers of older adults: a meta-analytic comparison. Psychology and Aging, 26(1), 1-14. https://doi.org/10.1037/a0021863
- Lindauer A, Harvath TA. (2014). Pre-death grief in the context of dementia caregiving: a concept analysis. Journal of Advanced Nursing, 70(10), 2196-2207. https://doi.org/10.1111/jan.12411
- Sörensen S, Pinquart M, Duberstein P. (2002). How effective are interventions with caregivers? An updated meta-analysis. The Gerontologist, 42(3), 356-372. https://doi.org/10.1093/geront/42.3.356
- 厚生労働省. 介護休業制度特設サイト「その他・相談窓口」. https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyoukintou/ryouritsu/kaigo/consultation
- e-Gov法令検索. 介護保険法(第115条の45、第115条の46). https://laws.e-gov.go.jp/law/409AC0000000123


