親に施設の話をどう切り出す?タイミングと、本人の気持ちを大事にする話し方

親の暮らしが心配になっても、「施設」という言葉を口にするのは勇気がいります。親を見捨てるようで、言い出せない人も少なくありません。研究からは、施設に移るかどうかより「本人がその決定に関われたか」が、その後の暮らしのなじみやすさと関わっていることが見えてきます。
3行でわかる
- 日本の60〜99歳の約7割(69.6%)は、住み替えの意向が「ない」と答えています。80〜84歳では78.5%でした(内閣府、2024年)。
- 海外の研究のまとめでは、施設に移る決定に本人がどれだけ関われたかが、移った後の心のなじみやすさと関連していました。
- 急に決めるほど本人が関わる時間はなくなります。元気なうちに「もしも」の話として、親が決める形で少しずつ話すのが基本です。
01結論から言うと
施設の話は「入ってほしい」ではなく「どこで、どう暮らしたいか」を聞くことから始めます。早めに、繰り返し、決めるのは親だという前提で話すのがよい方法です。
多くの高齢者は、今の家に住み続けたいと考えています。施設の話に親が身構えるのは、ごく自然な反応です。
一方で、施設に移った人を調べた研究では、自分で決めた、または決定に関われた人ほど、新しい暮らしになじみやすいという関連がありました。
だから、急いで結論を出すより、親が自分で考えて選べる時間をつくることが大切です。施設に移るかどうかは、自宅で使える介護サービスも含めた選択肢の一つとして話します。
02研究とデータでわかっていること
高齢になるほど住み替えを望む人は減ります。施設に移った人の研究では、決定への関与、自分で決められる感覚、人とのつながりがなじみやすさと関連していました。
内閣府(令和6年版高齢社会白書、2024年)[1]
住み替えの意向が「ある」は5.8%、「状況次第で将来的には検討したい」は24.6%でした。年代が上がるほど意向は低く、85歳以上では「ない」が81.7%でした。75歳以上で住み替えが実現できない理由は、「資金が不足」(27.9%)に次いで「健康・体力面で不安」(18.0%)が多くなっていました。
対象: 日本の60〜99歳3,329人(オンライン調査、2024年2〜3月) / 限界: 施設に限らず、すべての住み替えについての質問です。オンラインで答えられる人に限られます。
Brownieら(2014)[3]
19本の研究を整理すると、施設への移り住みの経験を左右する主な要因は、移る決定にどれだけ本人が関われたか、自分のことを自分で決められる感覚を保てたか、大切な人とのつながりを保てたか、でした。
対象: 長期介護施設に移った高齢者を調べた観察・記述研究19本 / 限界: 海外の研究で、介入の効果を比べた研究ではありません。
Yongら(2021)[4]
20本の研究を整理し、施設へのなじみやすさに関わる要因として、決定を自分でコントロールできたこと、自分はできるという感覚、周りの支えなどを挙げました。
対象: 介護施設に入居した高齢者の研究20本(17本は1時点の調査) / 限界: 多くが1時点の調査で、因果関係までは言えません。
Hur・Lee(2026)[5]
入居後の高齢者の語りを調べた18本の質的研究をまとめると、なじめなさの背景として「選択の余地のない入居」や「暮らしの中で自分で決められる感覚の喪失」が挙がりました。
対象: 長期介護施設に入居した高齢者についての質的研究18本 / 限界: 聞き取りの研究のまとめで、どのくらいの人に当てはまるかは示していません。
03まだわかっていないこと
「どう切り出せば親が前向きになるか」を比べた研究は、まだほとんどありません。日本の家族を対象にした研究も少ないのが現状です。
- 家族の切り出し方の違いで、入居後のなじみやすさが変わるか
- 入居前後の支援の効果(数量的に調べた研究を探したまとめでは、条件に合うものは4本だけでした)[6]
- 日本の家族関係や「親を施設に入れる」ことへの気持ちを踏まえた研究
04親と一緒にできること
「どう暮らしたいか」を聞く、選択肢を一緒に調べる、決めるのは親だと伝える。この順番で、時間をかけて進めるのが基本です。
「施設」ではなく「これからの暮らし」から聞く
結論を出す話ではなく、希望を聞く話にします。「今すぐの話じゃないんだけど、もし階段がつらくなったら、どこでどう暮らしたい?」
目安 元気なうちに・帰省のたびに少しずつ
嫌な理由を、否定せずに最後まで聞く
「家を離れたくない」「知らない人と暮らすのが不安」など、理由がわかると選べることが変わります。「そう思うのは当然だよね。何がいちばん心配?」
目安 1回で決めない
自宅で暮らす方法も含めて、選択肢を一緒に調べる
お住まいの地域の地域包括支援センターでは、自宅で使える介護保険のサービスも含めて相談できます。「決めるのはお母さん。私は一緒に調べたいだけだよ」
目安 心配が出てきた時点で・電話1本から
移る場合も、親が選べる部分を残す
見学に一緒に行く、持っていく家具や写真を親が選ぶ、友人との行き来を続けるなど、本人が決められることを増やします。研究で挙がった「自分で決められる感覚」と「人とのつながり」を保つためです。
目安 決める前から入居後まで
05よくある質問
親に施設の話を切り出すタイミングはいつがいい?
研究で「何歳で」「どの時期に」と決まった答えはありません。ただ、施設への移り住みになじめるかには、本人が決定に関われたかどうかが関連していました。急な入院や転倒の直後より、まだ元気で落ち着いて考えられるうちに、「もしも」の話として少しずつ始める方が、親が自分で選ぶ時間をとれます。
親が施設は絶対に嫌だと言ったらどうすればいい?
まず理由を聞きましょう。家を離れたくない、知らない人と暮らすのが不安、お金が心配など、理由によって考えられることが変わります。自宅で使える介護保険のサービスで暮らしを続ける方法もあります。お住まいの地域の地域包括支援センターに、親の希望を伝えて相談できます。
親が認知症の場合、本人の意思はどう確かめればいい?
物忘れがあっても、好きなこと・嫌なことや、どう暮らしたいかの気持ちは伝えられることが多いです。短い言葉で、選択肢を2つほどに絞って聞く方法があります。判断が難しいと感じるときは、かかりつけ医やケアマネジャー、地域包括支援センターに相談してください。
人生会議(ACP)とは何?
厚生労働省によると、もしものときのために、望む医療やケアについて前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有する取り組みのことです。施設の話も、こうした「繰り返し話す」流れの中で扱うと切り出しやすくなります。
出典
- 内閣府 (2024). 令和6年版高齢社会白書 第1章第3節2 高齢期における住み替えに関する意識について(高齢社会に関する意識調査、令和5年度). https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2024/html/zenbun/s1_3_2.html
- 厚生労働省. 「人生会議」してみませんか. https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02783.html
- Brownie, S., Horstmanshof, L., & Garbutt, R. (2014). Factors that impact residents' transition and psychological adjustment to long-term aged care: a systematic literature review. International Journal of Nursing Studies, 51(12), 1654-1666. https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2014.04.011
- Yong, B., Lin, R., & Xiao, H. (2021). Factors associated with nursing home adjustment in older adults: A systematic review. International Journal of Nursing Studies, 113, 103790. https://doi.org/10.1016/j.ijnurstu.2020.103790
- Hur, Y., & Lee, S. J. (2026). Negative Experiences and Maladjustment Following Long-Term Care Facility Admission: A Meta-Synthesis of Qualitative Studies. Research in Nursing & Health. https://doi.org/10.1002/nur.70108
- Scott, S., Raynor, A., Dare, J., Grieve, J., & Costello, L. (2024). Improving the Transition of Older Adults into Residential Aged Care: A Scoping Review. Clinical Gerontologist, 47(5), 746-759. https://doi.org/10.1080/07317115.2023.2274042


