親の聞こえが悪くなった。補聴器を使うと認知症のリスクは下がる?

親の聞こえを良くすることは、それ自体に意味があります。ただし「補聴器で認知症を防げる」とは、まだ言えません。米国の大きな試験では、全体では認知機能の低下に差がなく、認知症のリスクが高い人たちでだけ低下が小さくなりました。
3行でわかる
- 60歳以上の4人に1人以上が、暮らしに支障のある難聴をもっています(WHO、世界)。
- 補聴器を使う人は、使わない難聴の人より認知機能が落ちにくい傾向がありました。ただしこれは観察研究で、補聴器のおかげとは言い切れません。
- くじ引きで分けた試験では、全体で差はありませんでした。差が出たのは、もともと認知症のリスクが高いグループだけです。
01結論から言うと
補聴器が親の認知症のリスクを下げるかは、まだ結論が出ていません。効果が出た可能性があるのは、認知症のリスクが高い人に限られます。聞こえを助ける目的で、まず耳の診察から考えるのが確実です。
電話で何度も聞き返される。テレビの音が大きくなった。そんな変化に気づくと「認知症につながるのでは」と心配になるかもしれません。
WHOは、難聴を放っておくと認知症になるリスクが高まり、認知機能の低下が早まると説明しています[3]。一方で、補聴器を使えばそのリスクが下がるかは、別の問題です。それを確かめるには、補聴器を使う人と使わない人をくじ引きで分ける試験が必要になります。
その試験の結果は「全体では差がない」でした[1]。ここを正確に知っておくと、「早くつけないと認知症になる」といった言葉に慌てずにすみます[4]。
02研究とデータでわかっていること
補聴器を使う人は認知機能が落ちにくい傾向があります。ただ、くじ引きの試験では全体で差がなく、認知症のリスクが高い238人のグループでだけ、3年間の低下が48%小さくなりました。
Yeoら(2023)[2]
31の研究を集めたまとめです。難聴のある人のうち、補聴器や人工内耳を使う人は、使わない人に比べて長期的に認知機能が落ちるリスクが19%低いという関連がありました。使い始めて短期間で、認知機能テストの点が3%よくなったという結果もありました。
対象: 長期の分析は8研究・12万6903人、追跡2〜25年 / 限界: 中心は観察研究です。補聴器を使う人はもともと健康や暮らしに余裕がある、といった違いの影響を除ききれません。著者らも、くじ引きの試験で確かめる必要があると書いています。
Linら / ACHIEVE試験(2023)[1]
難聴のある米国の70〜84歳977人を、補聴器と聞こえの相談を受けるグループと、健康の講習を受けるグループにくじ引きで分けました。3年後、全体では認知機能の低下に差はありませんでした。ただ、心臓や血管の病気を長く調べる研究から参加した238人(もともと認知症のリスクが高い人たち)では、低下が48%小さくなりました。
対象: 米国4地域、70〜84歳、認知機能に大きな問題のない難聴の人 / 限界: 48%は全体の結果ではなく、あらかじめ決めておいたグループ別の分析です。もう一方の健康なボランティア739人では差がなく、認知機能の障害が新たに出る割合も、どのグループでも差がありませんでした。
補聴器を買う前の注意も、データがあります。国民生活センターに寄せられた補聴器の相談は、2019年度に628件でした[4]。60代の女性が店で「早めに補聴器をつけ始めないと、認知症になりやすくなる」と言われ、40万円弱で購入した例もあります。あとで耳鼻咽喉科で調べると聴力は正常で、補聴器は必要ないと言われました[4]。
03まだわかっていないこと
健康な高齢者で補聴器が認知症を減らすかは、まだわかっていません。3年より長い効果や、日本の高齢者での効果も、確かめた試験は見当たりません。
- 認知症のリスクが高くない人での長期の効果(ACHIEVE試験は3年より長い追跡を続けています)[1]
- 認知症そのものを減らすか(試験の主な目的は認知機能テストの変化でした)[1]
- 観察研究で見られた差のうち、どこまでが補聴器の効果なのか[2]
- 日本の高齢者を対象にしたくじ引きの試験の結果(今回調べた範囲では見当たりませんでした)
04親と一緒にできること
「認知症予防」ではなく「話しやすくするため」と伝えるのがコツです。まず耳の診察を受け、補聴器は試してから家族と一緒に決めます。急いで買う必要はありません。
困っている場面を、責めずに聞く
「最近、電話で聞き取りにくいことない?私も早口だから、聞こえにくかったら言ってね」と、自分の話し方を入り口にします。テレビ、電話、集まりなど、どこで困っているかを親の言葉で聞きます。
目安 次の電話で1回
まず耳鼻咽喉科で聞こえを調べる
国民生活センターは、聞こえにくいと感じたら、まず専門医の診断を受けるよう勧めています[4]。「一度ちゃんと測ってもらうと安心だから、一緒に行こうか」と誘います。
目安 1か月以内に1回
補聴器は試してから、1人で決めない
国民生活センターは、契約前に自分に合った機器か確かめること、1人で決めず周りに協力を求めることを勧めています[4]。「決めるのはお母さん。私も話を一緒に聞いていい?」と、決める権利は親に残します。困ったときは消費者ホットライン188に相談できます。
目安 購入の前に必ず
物忘れも気になるときは、別に相談する
聞こえが原因で話がかみ合わないこともあれば、物忘れが重なっていることもあります。電話で同じ話を何度もする、物忘れが年のせいか心配という場合は、かかりつけ医か、お住まいの地域の地域包括支援センターに相談できます。
目安 気になる様子が続くとき
05よくある質問
補聴器をつければ認知症にならない?
そうとは言えません。米国の70〜84歳977人の試験では、全体として補聴器を使っても3年間の認知機能の低下は変わりませんでした。差が出たのは、認知症のリスクが高い人たちのグループだけです。補聴器は、まず会話や暮らしの聞こえを助けるものと考えるのが正確です。
「早めに補聴器をつけないと認知症になる」と店で言われた。すぐ買うべき?
すぐに決めなくて大丈夫です。国民生活センターには、そう言われて約40万円で買ったあと、耳鼻咽喉科で補聴器は不要と言われた相談が寄せられています。まず耳の診察を受け、試してから家族と一緒に決めます。
親が補聴器を嫌がるときはどうする?
無理につけさせる必要はありません。どんな場面で困っているか、何がいやなのかを先に聞きます。聞こえの診察だけ一緒に行く、音の大きさや付け心地を試してから決めるなど、親が選べる形にすると話が進みやすくなります。
出典
- Lin FR, et al. (2023). Hearing intervention versus health education control to reduce cognitive decline in older adults with hearing loss in the USA (ACHIEVE): a multicentre, randomised controlled trial. The Lancet, 402(10404), 786-797. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(23)01406-X
- Yeo BSY, et al. (2023). Association of Hearing Aids and Cochlear Implants With Cognitive Decline and Dementia: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Neurology, 80(2), 134-141. https://doi.org/10.1001/jamaneurol.2022.4427
- WHO. Deafness and hearing loss(ファクトシート、2026年3月3日). https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/deafness-and-hearing-loss
- 国民生活センター. 補聴器トラブルを防ぎましょう!-買ったが合わず返品もできない、医師に不要と言われた…-(2021年2月25日公表). https://www.kokusen.go.jp/news/data/n-20210225_1.html


