親が物忘れの受診を嫌がる。伝え方と、早めに相談する意味

親が物忘れの受診を嫌がるのは、めずらしいことではありません。研究では「年のせい」と考えることや、認知症への偏見が、相談を遅らせる理由として挙がっています。無理に連れて行かず、親の不安を聞き、いつもの通院のついでに相談する形をとりましょう。親が嫌がる間は、家族だけで先に相談することもできます。
3行でわかる
- 症状に気づいてから診断まで、平均3.5年かかっていたという研究があります(海外13研究のまとめ)。
- 受診をためらう理由は「年のせい」という思い込みや、認知症と知られることへの不安です。
- 「検査に行こう」より「困っていることを先生に聞いてみよう」のほうが、親は話しやすくなります。
01結論から言うと
受診は親が自分で決めることです。説得より、親の不安を聞くことから始めましょう。早めの相談には、認知症に似た別の病気が見つかる、親が自分で先のことを決められるという意味があります。
政府広報オンラインは、うつやせん妄(急に起こる意識の混乱)、甲状腺の病気など、認知症に似た状態があるため、早めに適切な診断を受けることが大切だと説明しています[1]。
早めに相談する意味は、主に次の3つです。
- 別の原因が見つかることがある: 物忘れのように見えて、治療の対象になる病気のこともあります。
- 親が自分で決められる: 暮らし方やお金のことを、親の希望を聞きながら話し合えます。
- 支えにつながる: 相談窓口や、認知症の人や家族が話せる場(認知症カフェなど)を知ることができます[1]。
02研究とデータでわかっていること
症状に気づいてから診断までは数年かかることが多く、その理由には「年のせいだと思う」「知られたくない」という気持ちがあります。家族の支えは、相談を後押しする要因の1つです。
Kusoroら(2025)[2]
13の研究(3万257人)を整理し、そのうち10研究をまとめると、症状が出てから認知症と診断されるまでの期間は平均3.5年でした。
対象: ヨーロッパ・オーストラリア・アメリカ・中国の研究。日本の研究は含まれていません / 限界: 症状が出た時期は家族の記憶や記録をもとにしており、研究ごとに数え方が違います。
Hillら(2021)[3]
認知症ではない高齢者が、物忘れについて相談するかどうかを調べた18の研究を整理しました。相談を後押ししたのは、困りごとの大きさ、周りの支え、早く見つけることを大事だと思えること、家族に認知症の人がいたことなどでした。反対に、「年をとれば普通」と考えることや、相談しても良いことがないと思うことが、相談を遠ざけていました。
対象: 地域で暮らす認知症ではない高齢者を調べた18研究のシステマティックレビュー / 限界: すべて一時点の調査で、どの声かけで相談が増えるかまでは確かめていません。
Brigianoら(2025)[4]
60歳以上の人の声を集めた17の研究を整理すると、認知症と知られたくない気持ち、周りの偏見を自分でも信じてしまうこと、家族や地域の反応が、相談のしかたに影響していました。偏見は、診断や治療を遅らせていました。
対象: 聞き取りなどによる17の質的研究のまとめ / 限界: 数字で効果を測った研究ではありません。
Clarfield(2003)[5]
認知症の原因を調べた研究をまとめると、治療で良くなる可能性のある原因が9%に見られました。実際に良くなったのは、認知症の人の0.6%でした。
対象: 39研究・7,042人のメタ分析 / 限界: 2002年までの研究で、今の医療とは条件が違います。「治る認知症」は多くないことも示しています。
03まだわかっていないこと
どんな伝え方をすれば親が受診しやすくなるかを、比べて確かめた研究はまだほとんど見つかりませんでした。伝え方は、研究でわかった「ためらう理由」から考えたものです。
- 診断までの期間を調べた研究に日本のものは含まれておらず、日本で平均何年かかっているかはわかっていません[2]。
- 診断までの期間を短くする方法の研究は、これからの課題とされています[2]。
04親と一緒にできること
「検査」ではなく親の困りごとから話し、いつもの通院のついでに相談する形をとりましょう。嫌がる間は、家族だけで地域包括支援センターに相談できます。
まず親の気持ちを聞く
「最近、忘れっぽくて困ってることある?自分でも気になってたりする?」と聞きます。親が「年のせいだよ」と言っても否定せず、「そうかもね。でも心配だから、一度だけ先生に聞いてみない?」と返します。
目安 電話や帰省のとき・5〜10分
いつもの通院のついでにする
「今度の血圧の診察のとき、物忘れのことも先生に聞いてみようか。私も一緒に行くよ」と誘います。政府広報オンラインも、まず日ごろ受診しているかかりつけ医に相談することをすすめています[1]。
目安 次の通院日
親が決められることを残す
「行くかどうか、どこに相談するかはお母さんが決めていいよ」と伝えます。「先のことを、お母さんの希望どおりにしたいから」と、早めに相談する理由を親のための言葉で話します。
目安 話し合いのたびに
嫌がる間は、家族だけで相談する
親の住む地域の地域包括支援センターに、家族だけで相談できます。かかりつけ医は、必要に応じて専門の医療機関につないでくれる相談先です[1]。
目安 親が受診を断ったあと
どんな変化があったら相談を考えるかは、親の物忘れは年のせい?認知症のはじまりとの違いで整理しています。言いにくい話の切り出し方は、免許返納の話し方も参考になります。
05よくある質問
親が受診をどうしても嫌がるときは、どうすればいい?
無理に連れて行く必要はありません。まず家族だけで、親の住む地域の地域包括支援センターや、親のかかりつけ医に相談できます。親には時間をおいて、困りごとを聞くところから話し直しましょう。
「認知症の検査に行こう」と言ってもいい?
親が身構えてしまうことがあります。「物忘れのことも先生に聞いてみない?」のように、いつもの通院のついでに相談する形や、親自身の困りごとを話す形のほうが話しやすくなります。
早めに相談すると、何がいいの?
うつや甲状腺の病気など、認知症に似た別の原因が見つかることがあります。また、親がまだ自分で考えて決められるうちに、これからの暮らし方やお金のことを一緒に話し合えます。
出典
- 政府広報オンライン (2025). 知っておきたい認知症の基本. https://www.gov-online.go.jp/article/202501/entry-7013.html
- Kusoro, O., Roche, M., Del-Pino-Casado, R., Leung, P., & Orgeta, V. (2025). Time to Diagnosis in Dementia: A Systematic Review With Meta-Analysis. International Journal of Geriatric Psychiatry, 40(7), e70129. https://doi.org/10.1002/gps.70129
- Hill, N. L., Bratlee-Whitaker, E., Sillner, A., Brautigam, L., & Mogle, J. (2021). Help-seeking for cognitive problems in older adults without dementia: A systematic review. International Journal of Nursing Studies Advances, 3, 100050. https://doi.org/10.1016/j.ijnsa.2021.100050
- Brigiano, M., Calabrese, L., Chirico, I., et al. (2025). Within My Walls, I Escape Being Underestimated: A Systematic Review and Thematic Synthesis of Stigma and Help-Seeking in Dementia. Behavioral Sciences, 15(6), 774. https://doi.org/10.3390/bs15060774
- Clarfield, A. M. (2003). The decreasing prevalence of reversible dementias: an updated meta-analysis. Archives of Internal Medicine, 163(18), 2219-2229. https://doi.org/10.1001/archinte.163.18.2219


