親の睡眠薬が心配。高齢者の睡眠薬と転倒・物忘れの研究データ

親が毎晩睡眠薬を飲んでいると知って、転んだり物忘れが増えたりしないか心配になる人は少なくありません。研究では、睡眠薬の使用と転倒・骨折に関連がありました。一方で、認知症との関係はまだ結論が出ていません。家族が薬をやめさせるのではなく、親と一緒にかかりつけ医や薬剤師に相談するのが確かな一歩です。
3行でわかる
- 睡眠薬(ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系)の使用は、複数のメタ分析で転倒・骨折の増加と関連していました。
- 60歳以上の試験のまとめでは、眠りの改善は小さく、日中のだるさや考える力への副作用が増えていました。
- 急にやめると離脱症状が出ることがあります。家族の判断でやめさせず、医師・薬剤師に相談します。
01結論から言うと
睡眠薬と転倒・骨折の関連は、複数の研究で結果がそろっています。認知症との関係は分かれています。薬を続けるかどうかは、親と医師・薬剤師が決めることです。
年をとると、眠りは浅く、短くなります。夜中に何度も目が覚めると、つらくて薬に頼りたくなるのは自然なことです。
厚生労働省の指針は、高齢者のふらつき・転倒や物忘れの原因になりうる薬として、睡眠薬を挙げています[1]。特に「ベンゾジアゼピン系」と呼ばれる種類は、転倒、骨折、認知機能の悪化、せん妄(急に混乱する状態)などのリスクがあり、高齢者には特に慎重に使う薬とされています[1]。
ただし、指針は「薬を飲んではいけない」とは書いていません。必要に応じて使い、漫然と長く続けず、少ない量にとどめるよう医師に求めています[1]。
02研究とデータでわかっていること
海外のメタ分析で、睡眠薬の使用者は転倒や股関節の骨折が多いという関連がありました。飲み始めの時期ほど骨折との関連が強く出ています。
Seppalaら(2018)[4]
高齢者の転倒と心の薬の関係を調べた248研究を整理しました。年齢などを調整した分析で、ベンゾジアゼピン系を使う人は転倒のオッズが1.42倍でした。作用が長く続くタイプでは1.81倍でした。
対象: 60歳以上、または平均70歳以上の人を調べた研究 / 限界: 研究ごとの結果のばらつきが大きく、病状が重い人ほど薬が出やすいという偏りを取り除けていません。
Donnellyら(2017)[3]
股関節の骨折との関連は、ベンゾジアゼピン系で1.52倍(18研究)、Z薬と呼ばれる非ベンゾジアゼピン系で1.90倍(6研究)でした。どちらも飲み始めて14日以内の人で、約2.4倍と最も強い関連がありました。
対象: 平均65歳を超える集団の研究(くじ引きでない観察研究) / 限界: 2種類の薬を直接比べた研究はなく、著者らも「差は小さい」としています。
Glassら(2005)[2]
60歳以上の不眠の人を対象にした24の試験をまとめると、睡眠薬で睡眠時間は平均25.2分延びました。一方、考える力への副作用は4.78倍、日中のだるさは3.82倍多く報告されました。13人が飲むと睡眠の質が良くなる人が1人増える一方、6人が飲むと副作用が出る人が1人増える計算でした。
対象: 精神疾患のない60歳以上の2,417人(5晩以上の短期の試験) / 限界: 短期の試験のみで、長く飲み続けた場合はわかりません。
03まだわかっていないこと
睡眠薬が認知症の原因になるかは、研究で結論が分かれています。転倒も、薬そのものの影響か、眠れないこと自体の影響かを分けきれていません。
- 認知症との関係: カナダの66歳を超える人の研究では、ベンゾジアゼピン系の使用とアルツハイマー病に関連がありました(オッズ比1.51)[5]。アメリカの65歳以上3,434人の研究では、少し飲んだ人でわずかに高く、最も多く飲んだ人では関連がなく、著者らは因果関係を支持しないとしています[6]。
- 転倒の原因が薬なのか、不眠や持病そのものなのか(研究の多くが観察研究です)[3][4]
- 日本の高齢者で、睡眠薬の見直しが転倒を減らすかを確かめた試験(今回調べた範囲では見当たりませんでした)
04親と一緒にできること
家族の役目は、薬をやめさせることではありません。親の眠りの悩みを聞き、ふらつきなどの変化を医師・薬剤師に伝えることです。
まず、眠れないつらさを聞く
薬の話から入ると、責められていると感じやすくなります。「夜はよく眠れてる?夜中に目が覚めるとつらいよね」と、眠りの困りごとから聞きます。
目安 次の電話か帰省で5分
次の受診で、一緒に相談してみる
「最近ふらつくことがあるって言ってたから、今の薬で大丈夫か先生に聞いてみない?」と誘います。指針は急な中止で離脱症状が出るリスクを挙げています[1]。量や続け方は、かかりつけ医か薬剤師が判断します。
目安 次の定期受診か、薬をもらうとき
寝床にいる時間を一緒に見直す
厚生労働省の睡眠ガイド2023は、高齢者は寝床にいる時間が8時間以上にならないことを目安にし、長い昼寝を避けるよう勧めています[7]。「何時ごろ布団に入ってる?」と、生活のリズムを一緒に振り返ります。
目安 1週間ほど、寝た時間と起きた時間をメモ
ほかにも薬が多い場合は、親の薬が多すぎるときの記事で、薬を全部まとめて見てもらう方法を紹介しています。
05よくある質問
高齢の親が睡眠薬を飲んでいると、転倒しやすくなる?
複数のメタ分析で、睡眠薬の使用と転倒・骨折に関連がありました。ベンゾジアゼピン系では転倒のオッズが約1.4倍でした。観察研究のまとめなので薬だけが原因とは言えませんが、厚生労働省の指針も転倒・骨折のリスクを挙げています。
親の睡眠薬を家族がやめさせてもいい?
やめさせないでください。厚生労働省の指針は、ベンゾジアゼピン系の薬は急にやめると離脱症状が出るリスクがあると注意しています。気になるときは、親と一緒にかかりつけ医か薬剤師に相談します。
睡眠薬を飲み続けると認知症になる?
研究ではまだ結論が出ていません。カナダの研究では関連がありましたが、アメリカの研究では因果関係を支持しない結果でした。物忘れが気になる場合は、かかりつけ医か地域包括支援センターに相談します。
出典
- 厚生労働省. 高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)(2018年5月). https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
- Glass J, et al. (2005). Sedative hypnotics in older people with insomnia: meta-analysis of risks and benefits. BMJ, 331(7526), 1169. https://doi.org/10.1136/bmj.38623.768588.47
- Donnelly K, et al. (2017). Benzodiazepines, Z-drugs and the risk of hip fracture: A systematic review and meta-analysis. PLoS One, 12(4), e0174730. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0174730
- Seppala LJ, et al. (2018). Fall-Risk-Increasing Drugs: A Systematic Review and Meta-Analysis: II. Psychotropics. Journal of the American Medical Directors Association, 19(4), 371.e11-371.e17. https://doi.org/10.1016/j.jamda.2017.12.098
- Billioti de Gage S, et al. (2014). Benzodiazepine use and risk of Alzheimer's disease: case-control study. BMJ, 349, g5205. https://doi.org/10.1136/bmj.g5205
- Gray SL, et al. (2016). Benzodiazepine use and risk of incident dementia or cognitive decline: prospective population based study. BMJ, 352, i90. https://doi.org/10.1136/bmj.i90
- 厚生労働省. 健康づくりのための睡眠ガイド2023(高齢者版). https://www.mhlw.go.jp/content/001305530.pdf


